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北京大学Yenching Academyでの経験まとめ:第4期生 曽根理紗

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北京大学Yenching Academy第4期生 曽根理紗さん

 

北京大学大学院燕京学堂 説明会のお知らせ(2022/10/8(土)21:00-22:00)】

kazukiearth.hatenadiary.jp

 

(記事のはじまり)

私が中国で所属している北京大学大学院燕京学堂(Yenching Academy: イェンチン・アカデミー)。中国と世界について英語で学ぶことができる全額奨学金の「エリート」修士プログラムとして知られています。中国に興味があったり中国で勉強したい海外の人の間では結構有名で実際に応募もいっぱいある一方、日本ではまだまだ知名度が低いです。そのため、私はこれまでYenching Academyがどんなプログラムなのかとか、その応募方法、自分自身の経験などについて書いてきました。(記事最下部に関連記事あり)

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今回は、Yenching Academyでの同級生である曽根理紗にプログラムでの経験などについてかなり詳しくシェアしてもらいました(第4期生の日本人は私と理紗だけでした)。私も1年目の経験については以下の記事でまとめましたが、理紗は1年目だけではなく2年目についても詳しくまとめてくれました。

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私は2年目に「ミドルキングダムの冒険(Middle Kingdom Adventure)」というプロジェクトを始めてずっと中国各地を旅していましたが、理紗は国連で働いたり、国際会議に参加したり、研究などをしていました。私たちの経験や活動を見比べてもらうと、プログラム絡みの経験が主な北京での1年目となんでもどこでも自由にできる2年目があるというYenching Academyの特徴がわかってもらえると思います。

ぜひ参考にしてみてください!

私たちはYenching Scholarとしてすばらしい人々に出会いすばらしい経験をしてきたのでYenching Academyはすごくおすすめです!!

 

(以下の文章はYenching Academy第4期生の曽根理紗が書いたものです)

 

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応募しようと思ったきっかけ

日本での学部時代から東アジアの国際関係や日中関係に強い関心があり、イギリス留学やシンクタンクと国際NGOでのインターン、さらに様々な海外プログラムに参加する中で、中国の視点からも同トピックを学びたいと思い、中国へ大学院留学に対してなんとなく関心がありました。ただその際に、自身の中国語のレベルの低さと、中国の大学で外交を学ぶ上での視点の偏りに対する学術面における不安等からやはり厳しいかなと感じていた頃に、当時の私の大学が燕京学堂プログラムの一Cooperative Universityに加盟したというお知らせを学内ポータルサイトで発見し、「これだ!」と見た瞬間に感じ応募することとなりました。

 

1年目の経験

選択科目で計15単位修めなければいけない中で私は18単位とりました(秋に10単位:春に8単位)。3単位の授業などは3時間ぶっ通しで行われるケースもよくあり、最初は非常に長く感じます。必修科目もいれると割と時間割が埋まる印象です。

Yenchingプログラムの大きな特徴として、フィールドトリップに多く参加できるという点があげられますが、個人的にそれが学期中に忙しいと感じる一番の要因でした。課題量は比較的こなしていける量だと思いますが、週末に立て続けでフィールドトリップやその他イベントの予定等が入ると、格段に忙しくなった印象です。

基本的には参加している授業の一環としてフィールドトリップに参加しますが、私を含め、百賢アジア研究院(Bai Xian Asia Institute)から奨学金をもらっているBai Xian Scholar の特権として、履修していない授業のフィールドトリップに参加できる場合があります。

※Yenching Academyは百賢アジア研究院が支援するパートナー大学のひとつなので、Yenching Scholarの一部は同時にBai Xian Scholarにも選ばれています(私とこのブログを運営しているKazukiはYenching Scholar兼Bai Xian Scholarでした)

 

2018年秋:授業とフィールドトリップ

選択科目
  • Media and International Relations (3単位)

Yenching AcademyのAssociate DeanであるFan Shiming教授が教える近代メディアが外交に及ぼす影響についての授業。メディアと外交に関心がある人にとっては面白い内容だが、国際関係学を学んだことある人にとっては、比較的基礎的で授業の進行スピードもゆっくりな印象。ただFan教授は、日中関係にも非常に関心が高くとても生徒想いで優しい方なので、個人的に色々聞けば丁寧にかつ的確に対応してくれる。

 

  • Chinese Politics and Public Policy (3単位)

近代中国の国内政治の諸問題を包括的に学べる。共産党の仕組み、中国国内の格差問題や、インターネットの検閲等、ありとあらゆる問題について比較的正直に議論される。新疆問題等についてのセンシティブなトピックに関して、たまに教授の変な発言があったりしたが(慣れない英語で話しているのも一要因のように見受けられた)、天安門事件などについても自由に議論できる雰囲気だった。ただ毎週違う問題を扱うため、見方によっては内容が広く浅く、深いところまで議論しきれていないという点は否定できない。

 

  • Venturing into China: Entrepreneurial Innovation in the 21stCentury (2単位)

今、中国で起業する上で必要なことを包括的に学べる授業。実施にグループを組んでビジネスプランをプレゼンしフィードバックをもらう。ただビジネス専攻の人には、比較的内容が基礎的すぎるかもしれない。

 

▶︎フィールドトリップ1

行き先:北京(深センと並ぶ中国のシリコンバレーと呼ばれる中間村)

時期・期間:11月中旬、日帰り

内容:Microsoftオフィスに訪問。中国マイクロソフトの製品や事業内容についての説明を受けた。

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"中国のシリコンバレー"中間村にあるMicrosoftのオフィス

 

▶︎フィールドトリップ2

行き先:杭州&江南水郷

時期・期間:12月中旬、二泊三日

内容:中国のイノベーションの中心地として注目を集める杭州で、それに関連した多くの施設に訪問。例えば様々なロボット技術を展示した「萧山机器人博展中心(XiaoShan Robot Expo Center)」やイノベーションパーク、第五回World Internet Conferenceが開催された会議会場とその周辺の唐時代の古い建築物が残る水郷など。

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唐時代の古い建築物が残る水郷

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第五回World Internet Conferenceが開催された会議会場

 

  • Theory and Practice of Chinese Foreign Policy (2単位)

中国外交にセオリーがあるのかないのか議論を呼ぶなかで、教授はそれがあるとし、近代中国の外交政策についてとても深く切り込んだ内容の授業。学部で国際関係学を専攻した私にとっても非常に満足度が高かった。教授の英語のレベルは非常に高く、生徒の正直な(たまにセンシティブな)質問もいつも快く受け入れ、毎授業で非常にアカデミックで質の高い議論がよくうまれた。一方でほぼ毎週、3〜5つのリーディングの内容まとめと自身の論考を織り込んだレポートを提出しなければいけなかったほか、5000ワードの期末レポート提出など、課題がそれなりにきつかった。

 

必修科目
  • China in Transition 1 (3単位)
  • Chinese 1 (2単位)
  • Field Study –Xi’an (3単位)

※詳細は省略

 

その他のフィールドトリップ
  • 西安(11月中旬、6泊7日)

秋学期に全ての学生を対象に必修として行われるフィールドトリップ。様々なレクチャーや各種遺跡の訪問、企業などの視察、文化体験などがあった。ちなみに、第5期生の行き先は四川省成都とその周辺だった。

 

  • 広州・深セン(12月初旬、2泊3日)

アフリカ系コミュニティやアフリカ関係のビジネスをしている企業などを訪問した。

 

2019年春:授業とフィールドトリップ

選択科目
  • Retrospect and Prospect of International Development Cooperation in China (3単位)

国連での勤務経験を持つ教授による、中国の国際開発について包括的に学べる。アカデミックな開発学というよりは、教授の経験ストーリを織り込んだ国際開発のリアルな仕組みや実際の現場の様子など比較的実践的な内容であったという印象。国際機関に就く上で重要なキャリアパスの選び方や、面接の受け答え等についての直接的な指導もある。

 

▶︎フィールドトリップ1

行き先:北京

時期・期間:3月下旬・日帰り

内容:AIIB (Asian Infrastructure Investment Bank)のオフィスに訪問。AIIBのプロジェクト内容等についてのプレゼンを聞く。

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AIIBのオフィス

 

▶︎フィールドトリップ2

行き先:上海

時期・期間:5月中旬・1泊2日

内容: BRICS銀行とも称されるNew Development Bank(新開発銀行)オフィスに訪問しVice Presidentを交えた会談に参加。

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New Development Bankのオフィス訪問

 

  • The Representation of Reality in Chinese Literature (3単位)

NYUの訪問教授がメインで教鞭をとり、中国の近代文学について学ぶ授業。毎週指定された本を読み、円になって内容を読んだ感想や意見等をシェアする。文学を学んだことがない私にとっては、どう本を読んでどう建設的に意見を述べるのが正解なのが分からず少々難しく感じたが、文学には時代ごとの中国社会の問題や政治に対する不満などが物語に反映されているため、時には議論が「中国の政治が中国社会へ及ぼす影響について」といった内容まで広がることが多々あった。

ただ課題として、毎週何冊もの本を読まなければならず慣れてない人にとっては辛い。またメインの教授はアメリカと中国を行き来しなければならず多忙であるため、彼がいない3分の2の間は、彼の助手たち(博士課程の学生)が授業を担当する。その人たちの授業の内容の面白さや授業に対するやる気にはばらつきがある。

 

  • Archaeology of Cultural Exchanges between China and the West (2単位)

イタリア人の教授が担当する、現在話題のシルクロードについて考古学的に学べる授業。それが歴史において、東と西の文明の交流を助ける上でどう重要な役割を果たしたか、時代ごとの陶器や絹の特徴から考察する。考古学のバックグラウンドがなくても参加できる。

 

▶︎フィールドトリップ

行き先:敦煌

時期・期間:4月下旬・3泊4日

内容:メインは莫高窟。教授とともにまわり、ひとつひとつ丁寧に説明をうける。他にも昔シルクロードの東と西をつなぐ関所だった陽関やクムタグ砂漠・月牙泉に訪れた。

 

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砂漠の中のオアシス・月牙泉と夕日

 

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中国三大石窟のひとつ莫高窟

 

必修科目
  • China in Transition 2 (3単位)
  • Topics in China Studies Lecture Series (2単位)
  • Chinese 2 (2単位)

 ※詳細は省略

 

その他のフィールドトリップ
  • 大同(4月中旬、3泊4日)

農村の貧困や開発などについて関連する場所を訪問したり、地元政府の人たちの話を聞いた。他にも中国三大石窟のひとつである「雲崗石窟」や崖に建てられたお寺「懸空寺」なども訪れた。

 

  • 廈門・上海(4月初旬、およそ一週間)

内容:China in Transitionという必修科目の授業の一環。

自分たちでトピックごとにグループを組み、フィールドワークを織り込んだ研究を行う。行き先や期間等も予算内であれば基本的に自由。

私たちのグループは、中国人女子大生の結婚観について研究をすることに。その上で、北京大学の他に上海交通大学や廈門大学の学生にインタビューを行うため、上海とアモイ(廈門)に訪れた。上海を選んだ理由は、1点目に中国最大のお見合い広場がある上海人民公園があるため、そして2点目に女性の結婚年齢が最も遅い地域のうちのひとつであるため。アモイを選んだ理由は、一線都市(First-tier City)である北京と上海と比較して二線都市でも調査を行いたかったため、そしてグループメイトの一人の中国人がアモイ大学出身で比較的キャンパス内での調査が行いやすかったためである。よって滞在期間中は主に、大学のキャンパス内で女子大生たちに声をかけ、結婚観について伺うインタビューを行っていた。

ちなみにKazukiのグループは、中国の国際戦略「一帯一路」に関連して、中国と東南アジアをつなぐ高速鉄道計画の建設地などを雲南省で訪問したらしい。

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中国最大のお見合い広場がある上海人民公園

 

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アモイ大学キャンパス

 

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研究発表の様子

  

  • 杭州(6月初期、2泊3日)

内容:中国文明について考古学的視点から切り込んだ授業のフィールドトリップ。

杭州にある良渚古城遺跡は中国にある最大規模かつ重要といわれる遺跡のうちのひとつで、出土した文物は新石器時代後期から稲作農耕文化(良渚文化)が存在していたこと、つまり中国文明が5000年以上であるということを考古学的に示すものであるとし話題を呼んだ。

良渚博物院(Liangzhu Museum)のほかに、悪天候や人的被害から保護するために遺跡を年中無休で監視する施設や、実際に発掘が行われている採掘場、採掘したものを研究する施設や、中国茶葉博物館(National Tea Museum)に訪れた。

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遺跡を監視する施設

 

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良渚古城遺跡で実際に採掘された陶磁器のピース達を接合している様子

 

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良渚博物院

 

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中国茶葉博物館 (National Tea Museum)の龙井茶(Longjingcha)の茶畑

 

1年目のその他の経験

Yenching では、頻繁に様々なシーズンごとのイベント(ハロウィーン、クリスマス、感謝祭など)、文化ワークショップ、特別レクチャー、キャリア支援ワークショップ等があります。他には、住む寮のフロアごとに分けられた、クラス(班:ban)ごとのイベント(誕生会や映画鑑賞会など)や日帰り旅行などもあります。週末に開催されるものではたまに日帰りのものもあったりするので、そういったものに積極的に参加し充実した日々を送りました。

例:中国茶を学ぶカルチャーサロン、中国伝統工芸であるしんこ細工(練り粉で作った人形)体験ワークショップ、香山ハイキング、北京郊外の農村への日帰り旅行、中国国家図書館訪問、などなど。

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しんこ細工(練り粉で作った人形)体験ワークショップ

 

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ディワリ(ヒンドゥー教のお祝い)

 

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中国茶を学ぶカルチャーサロン

 

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毎年年末に開催されるYenching Winter Ball

 

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香山ハイキング(北京郊外の山)

 

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中国国家図書館訪問

 

2年目の経験(※夏休み期間を含める)

2年目は1年目の時忙しくてなかなかできなかったことをやるように努めました。積極的に会議やフォーラムに参加したほか、特にかねてからずっとやりたかった中国での業務経験(インターンシップ)を積むことに力を注ぎました。

 

外資系リサーチ企業(上海)でインターン(6月〜7月)

まず夏休みの始めに上海にプチ移住をし、約8週間という短い期間ではありますが、英国系リサーチ企業ジャパンチームのアナリストインターンとして勤務しました。

上海には何度も訪れたことがあったのですが、中期間滞在し生活してみて、改めてグローバルで中国の流行の最先端である上海の街の魅力を感じました。オフィスでは、外資系の企業ということだけあって、英語はもちろん多数の外国語を操る優秀な中国人スタッフ達と共に働き、非常に刺激を受けました。となりのデスクが韓国チームだっただけあって、本当に常に4カ国語以上の言語が耳に入ってくるような環境でした。

当オフィスの日本人スタッフは私のほかに2人しかいませんでしたが、その方々の経歴をお伺いして、日本人として通常と違ったキャリアパスが選択肢としてあることを知りとても参考になりました。

プライベートの面では、ありがたいことに当企業には特別に家賃・食費を補助して頂いたので、一人で上海の一等地に住み、日々近所のレストランで多国籍な食事を楽しむという贅沢な生活をさせて頂き、上海で外資系企業に勤めるとこういう感じかと身をもって体験できたのは良かったです。他には、一人で上海の滞在先(アパート)を探す際の外国人としての苦悩やその際の家賃の交渉術等も経験できて良かったかなと思います。

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オフィスから見える景色

 

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私のデスク

 

日中韓ユースサミット(Trilateral Youth Summit)に参加(7月〜8月)

 

日本外務省及び日中韓協力事務局主催。2019年度は「社会の活性化(Rejuvenating Society)」がテーマでした。一日本代表参加者として、観光業における3か国協力の可能性について議論し政策提言を行いました。

この年は日本開催(東京、長野)で、主催者側が日本人参加者には国内でかかる交通費しか補助できないという条件でしたが、Yenching Academyが「奨学生の国際的な学術会議やシンポジウムへ参加をサポートする」取り組みの一環として、私の東京—北京間の往復フライト分を負担してくれました。Yenching Academyのこういった金銭面における寛大な支援には非常に感謝しています。

 

BXAIサマープログラム(8月)

Bai Xian Asia Instituteは全ての奨学生を対象に毎年夏Summer Campを開催しており、京都大学がホスト大学を務めた2019年度の開催地は京都となりました。日中韓を中心としたアジアの優秀な学生たちと3週間弱にわたって様々な活動に参加しました。

 

国連インターン(北京)(9月〜12月)

夏休み後日本から北京に戻ってすぐ、UNESCAP (United Nations Economic Social Commissions for Asia and Pacific:国連アジア太平洋経済社会委員会)の北京オフィスでインターンとして勤務しました。

学部時代から、大学院に行くなら国際機関で一度インターンをしてみたいと思っていたので、1月頃から夏もしくは秋に勤務スタートを目指して本格的にインターン先を探し出し始めました。当初はアジア圏全域で幅広く探し関心があるポストに幾つか応募したりしたのですが、まず連絡が返ってこず、なかなか上手く行きませんでした。

Yenchingのクラスメートで以前国連でインターンをしたことのある人にアドバイスをお願いしたところ、公式のプラットフォームはほぼ機能しておらずコネがないとなかなか通らないとのことで、彼は関心のあったオフィスに直接メールをしたら連絡が返ってきたと教えてもらいました。その助言を聞いて、関心のあるオフィスのメールアドレスをネット上で何とか探し出し、直接CV(履歴書)とカバーレターを送ったところ、唯一返事をくれたのが私がインターンしたUNESCAP傘下機関である「持続可能な農業機械化センター(Center for Sustainable Agricultural Mechanization、以下CSAM)」の北京本部でした。

UNESCAPは私が最も関心があった組織のうちの一つで、アジア太平洋地域のさらなる発展のために当地域内の社会・経済的交流を促進することを任務として掲げています。CSAMは、そんなUNESCAPの下部組織として2002年に北京にて設立され、中でもアジア太平洋地域のサステーナブルな農業機械化に関する技術協力の促進や文化・経済交流を推進するシステムの整備等を通じて、同地域のさらなる発展及び様々な社会課題(飢餓・貧困・環境・ジェンダー格差問題など)の解決を目指しています。私は個人的に、アジア地域のマルチラテラルな国家間協力に強い関心があったので、この機関はまさにぴったりでした。また中国国内における国連の業務のあり方等にも関心があったので、一石二鳥でした。

私が担当した主な業務内容としては、CSAMが抱える各プロジェクトのロジ関連業務の管理やそれに関連したリサーチ業務でした。そういった業務は東京の政治系シンクタンクインターンした際に経験済みだったので特に問題はなかったのですが、業務の中で感じたのはやはり「国連」という名前の強みでした。

国連の機関が主催するプロジェクトだからこそ、各メンバー国の政府機関が関わってきますし、会議を計画すれば、それなりの役職に就いた各国の政府の代表が参加します。ありきたりですが、その分やはり一つの項目を決定するのに、各国の要求の中間点を何度も会議を繰り返して模索しなければならないので、プロジェクト進行のスピードが遅いなと感じることは多々ありました。

あとはメンバー国各国の分担金で成り立っているという国際政府機関の特質上、予算等のやりくりの手順が非常に複雑かつ面倒な印象を受けました。(例えばオフィス利用のためのボールペンを数箱購入する際も、それにかかる資金の申請のために、ESCAP本部のバンコクオフィスを通して多くの手続きが必要となります)。

他に中国の国連オフィスならではの経験としては、業務上で中国にあるその他の国連機関の北京オフィスの方々とも交流が度々あったのですが、その中で度々、近年の中国が国連への参画に全力をあげていることを感じました。具体的には例えば、中国人スタッフの数や、中国政府の国連予算の中での分担金の額、中国国連40周年を祝うイベントへのお金のかけ方、中国人学生対象の国連への就職支援のイベントの規模、等々です。

3ヶ月という短い機関で業務内容としてはほぼ単純作業ばかりでしたが、実際に中に入って働いてみないと見えない部分が見えたり、多くの貴重な経験をさせてもらいました。何よりもやってよかったのは、インターン期間の後半に、あるプロジェクトの年一の重要な会議が韓国で開催された際に、飛行機代自腹で同席させて頂いたことです。

インターン中は複数のプロジェクトに関わりましたが、その中でもそのプロジェクトは比較的長期間携わっていたので、ぜひそれが実る瞬間に立ち会いたいと思ったのと、オフィスでの事前準備作業そして事後処理作業だけではプロジェクトの意義などが深く理解しきれない点があると感じたので、上司に相談して一スタッフとして参加させてもらいました。インターンが海外で開催する会議に、自腹で参加したのは前例がないそうです(笑)。結果、現場での各国代表の意見交換の場に立ち会うことができ、こうやって国際システムを作り上げるんだなと、目で見て体感することができたので、非常に良かったです。

こういった貴重な経験ができる国連でのインターンは関心のある人には是非オススメしたいのですが、無給である上に多くの場合でフルタイム勤務を要求されます。学生としては非常に厳しい条件になりますが、それでも私が今回挑戦できたのはやはりYenchingから奨学金として日々の生活費が貰えていたからだというのは間違いありません。

Yenchingの2年生は、授業がないながらも学生として奨学金を貰って中国で生活することができます。それが許される環境は世界でも中々ないと思います。この2年目をどう使うかは本当に学生次第で、自由に様々なことに挑戦できる機会なので、それも視野に入れてYenchingに応募するのもアリだと思います。

他に個人的に北京でインターンをして良かった点は、大学周辺とはまた違った北京の一面を経験できたことです。この国連のオフィスがあったところは、亮马桥(Liang Ma Qiao)といって多くの大使館が集まるエリアなのですが、その周辺はそういった政府系機関や外資企業で働く外国人の方が多くいて、非常に国際的な雰囲気でした。

大使館の方たちがよくお昼を食べるエリアへ行くと、店内の7割以上が外国人ということもよくあり、そんなエリアだからこそ、周辺のレストランは多国籍でかつどれも本格的でした。インターン期間中はそういった場所を散策し、北京大学がある学生の街もしくは中国のシリコンバレーと呼ばれる中関村とは違った雰囲気を知れたのは収穫でした。

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中国国連Compound (複合施設)の前で

 

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中国国連40周年記念イベント

 

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中国国連40周年記念イベントには運営スタッフとして参加した

 

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韓国で参加した会議の様子

 

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ある日のミーティングの様子

 

 

2年目のその他の経験 

  • 週末や休日を利用して定期的に国内旅行
  • Bai Xian Scholars向けのイベントやフィールドトリップ(Oxfordの教授が担当する安徽省の水郷エコロジーについてのフィールドワーク、2泊3日)等に参加

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湿地帯だった場所が行政によるダム建設・開発によって干からびている

 

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訪れた呈坎景区の景色

 

 

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参加したフィールドトリップの案内

 

  • 北京のホテルや大学で開催される特別レクチャーや学術フォーラム等に定期的に参加。(東京北京フォーラム、2019 Women in Leadership Forum、China Coal Consumption Cap and Energy Transition International Workshop 2019など)

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アメリカ系環境NGO主催の中国のCoal Cap Policy(石炭消費抑制政策)に関する学術フォーラムの様子

 

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UN Women共催のWomen in Leadership Forum 2019 の様子

 

まとめ

Yenchingで良かったこと/学んだこと

プログラム内容やYenching在籍中に出来る事としては主に上記のようなものが挙げられますが、その他にも多様なバックグラウンドを持ちそれぞれの分野で活躍する優秀なクラスメート達との日常的な交流が、かけがいのない収穫になったと個人的に感じています。

プログラムの特質上、一緒に過ごす時間が長いので、自然と会話したり一緒にハングアウトしたりする機会が多かったのですが、その際に交わした議論の内容や地域ごとの価値観の違い等を肌身で感じ、多くのことを学びました。ロンドンの大学に一年間留学したことがある私ですが、その時よりも何倍も内容の濃いものとなりました。

そしてこれは不思議に思われるかもしれませんが、過去2年間の私の英語力の伸びはイギリスにいた時より何倍も著しいです。それほど、クラスメート達との交流や自身の意見を発しなければいけないという環境にいたのだと思います。

何よりも、バックグラウンドや専門分野は異なりながらも、それぞれ夢を持ってそれぞれのフィールドで活躍する優秀なクラスメートたちに囲まれる環境にいられたのは本当に恵まれていたなと思います。彼ら彼女たちと一緒にいると、私もまだまだ、もっと頑張らなくてはという気にさせられます。2年目も1年目に負けないぐらい忙しく充実した日々を過ごす事ができましたが、それができたのは同様に常に向上心を持って努力を惜しまないクラスメート達の存在がいたからだと思います。今後おそらく幅広いフィールドで活躍をしていくであろう私のクラスメートたちが、世界各国にいると思うと心強いです。何か困った事あったら助けてもらいたいな〜なんて思ったり(笑)。

Yenching Academyは中国について学際的にとことん学べる修士プログラムであると同時に、重要なネットワーキングの機会でもあります。将来の自分に投資するといった意味でも、非常に適したプログラムだと思います。Yenchingでの経験は私の人生において間違いなく重要なターニングポイントになったと実感しています。是非関心のある方は応募してみてください。

 

Yenchingや中国留学の問題点

これは客観的に感じたことですが、選ぶ授業によって内容の専門性や求められる学術的な質が低かったりします。それは教授の英語レベルの問題であったり、出される課題の採点基準がいまいち分かりにくかったり(要は採点が甘かったり)、内容自体がつまらなく学生の授業へ参加するやる気が欠けていたり、色々な要因がありますが、本当に授業から多くを学んで研究に活かしたいなどと考えているやる気のある学生からすれば、物足りないと思います。

ただ個人的に思うのは、授業内で教授から学べることは限られているかもしれないけど、自主的に出されるリーディング課題(どの授業もそれなりに出ます)を上手く活用したり、学生達の間で議論を交わしたりすれば、割と得るものもあるのではないかと思います。要は受動的にではなく能動的に学ぼうとすれば、Yenchingはとても優れた環境だと思います。実際私も、クラスメートと交わした議論や誰かが発言した意見の方が印象に残っていることが多いです。

ただ技術面の観点から、Yenchingの学生であることで受けられない北京大学の授業があったり(Yenchingの学生はYenchingが提供する授業と北京大学の他の大学院が提供する一部の授業を受講できる感じです)、修論のアドバイザーとして選択できる教授の専門と自分が研究したい分野が一致しない等の問題があったりするので、特定の分野やトピックの研究を極めたいと考えている学生にとってYenchingは学びづらい環境かもしれません。

他には、中国留学の全般として言えるのが、インターネット利用の制限です。もちろん有料のVPNは購入することになりますが、それでも政治的に敏感な時期等は接続状況が悪かったり、とても遅くなったりします。これは、留学するうちに慣れるのですが、それでもやはり課題の締め切りが近い中で、グーグルに接続できなくなったり、読みたい論文がダウンロードできなくなったりするのは本当に悩みの種でした。

また、何人かのYenchingの学生がぶつかった壁が、念願かなって通ったインターンシップも大学の許可が下りなかったため諦めざるを得なかったというものです。北京大学の留学生として、勤務する上で法律的に大学の許可を貰ってビザを更新する(?)ことが必要とのことらしいです。通常はその手続きを踏めば問題はないのですが、インターン先によってはその許可が下りないということもあるようなのですが、その基準が非常に曖昧で(国際機関は審査が難しいと聞いたことがあります)信頼できないので、多くの学生はそれをせずにインターンをしています。ただ真面目な組織や企業はその手続きをちゃんとすることを求める場合もあるので、その際に大学の許可が下りずできなくなってしまうかもしれないのは残念ですよね。中国で外国人として生活する中で、こういう国や組織の規則等で理不尽な対応をされることが稀にあります。

さらに個人的に、中国で病気や怪我をするのは不安だなというのもあります。私は旅行先での虫刺されが原因で、身体全体に発疹ができて熱まで出たということがあったのですが、その時に大学病院に行った際に大量の使い慣れていない漢方薬をもらい、数日使っても効果が出ず傷が残ってしまったという経験があります。なので、健康面で不安のある人はそれ相応の準備をして留学した方がいいかもしれません。クラスメートの中には、よりしっかりとした医療を受けるために個人で高価な保険を購入し、北京にある外国人向けの病院などに行けるようにしている人もいました。

ほかには、最近は良くなってきましたが、北京では空気汚染がひどい日が未だにあります。合計すると年に大体数週間ほどでしょうか。体質によって出る症状は様々ですが私も含め多くの人は朝から頭痛やひどい倦怠感におそわれます。喘息持ちの方や空気汚染に敏感な体質の方は、場合によってはつらいかもしれません。あるクラスメートは非常に敏感な体質の子で、空気が悪い日はマスクをしても咳が止まらなくなってしまうため、家から一歩も外に出られないらしく、とても生活しづらそうでした。

 

経歴

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曽根理紗(SONE Risa)

  • 2020年7月 北京大学Yenching Academy卒業 - 中国学(政治・国際関係学)修士号 -「変容する中国の若者の対日観及びその影響」について論じた修士論文を執筆
  • 2019年秋 国連ESCAP北京オフィスにてインターン(3ヶ月)
  • 2019年夏日中韓ユースサミット」日本代表
  • 2019年夏 百賢亜州学院主催「BXAI Summer Program 2019」にアジア未来リーダー育成奨学生として参加
  • 2018年6月 国際基督教大学卒業(国際関係学専攻)
  • 2017年冬 仏パリのホームレス難民への物資支給ボランティア活動に参加
  • 2016-2017  英ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)へ1年間交換留学
  • 2016年夏 国連グローバルコンパクト主催「第八回日中韓ラウンドテーブル」のユース日本代表
  • 2016年夏 ICU財団主催グローバルリンクニューヨークプログラム(4週間)に参加
  • 2015年夏 香港中文大学サービスラーニングプログラム(4週間)に参加等々
  • そのほかにも、国際NGOや政治系シンクタンク、民間リサーチ企業等でプロジェクトマネジメントやリサーチ分野でインターン経験を積む
  • 日英中トリリンガル

https://www.linkedin.com/in/risa-sone-01bbb2143/

 

 

 

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<参考記事>

kazukiearth.hatenadiary.jp

 

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